2022年度総会講演会の報告

『人生100年のドストエフスキー』

2022年度の総会講演会はロシア文学者の亀山郁夫先生をお招きしました。

- 講演概要

 人生100年時代、100年あるなら「カラマーゾフの兄弟」くらい読もうという呼びかけから始まり、講演者の様々の経験とその時々の思考が語られました。15歳の「罪と罰」の読書体験、人生の危機の中で、友人の言葉でドストエフスキー全訳を目指したこと。旅行中スパイ容疑をかけられたときの恐怖。そして発生の翌朝ロンドンで知った、同時多発テロ「9.11」、その時、神の「黙過」(見て見ぬふりをすること)について思索し「悪霊」に描かれる最悪の「黙過」のシーンを思ったことは根源的な罪の意識の重要性へと繋がります。

 「カラマーゾフの兄弟」は多くのサブプロットがあり、それを読むことで人生の体験をしたような大きさがあると最初に紹介されましたが、講演の中で語られる一見離れた経験や思索が作品と関連づけられ、なぜドストエフスキーなのかの回答となっていくのを伺いながら、カラマーゾフの兄弟をぜひ読んでみたいと思いました。

- 亀山郁夫(かめやま いくお)先生 ご略歴

1949年、栃木県生まれ。現名古屋外国語大学学長、前東京外国語大学学長。ロシア文学者。主な著書として「磔のロシア」(大佛次郎賞)、「謎とき『悪霊』」(読売文学賞受賞)、「ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光」、訳書としてドストエフスキー「罪と罰」、「悪霊」、「カラマーゾフの兄弟」他。2019年12月より日本芸術院会員。